体重コントロールの謎 その4《減らすペース、どうしてます?》

《M》

セットポイントやらホメオスタシスの理屈が分かっても、いざ体重を落とし始めると必ず突き当たるのがリバウンドの壁です。「リバウンドの無い減量は存在しない」という専門家の意見もあるので、これはある程度織り込んでおかないといけないのですが、落とすペースとリバウンドには密接な関係があり、上手くコントロールできるかどうかの鍵にもなるので、今回は下げるペースについて書いてみたいと思います。

《目的の整理》
まず、クライマーが体重を下げることを考える時には、クライミングのパフォーマンスを向上させるという目的が前提にあるので、次の条件下で実現できる落とし方が求められると思います。

 ・体重を減らすと言っても筋力は維持したい。筋肉が落ちるなんて考えてもいない。
 ・パワーウェイトレシオが下がってしまっては意味が無く、できないムーブができるよう
  になるための減量に決まってる。
 ・家庭や仕事と折り合いをつけながら週末は外で登り、平日の何日かはジムに通う中で、
  無理なく体重を落として目標ルートのRPに結びつけたい。

しかし、岩場で接するクライマーの話を聞いていると、半年で6㎏落としたけど調子が悪くなったから体重減らすのやめたとか、1か月で3㎏落としたけど力が出なくなったので元の体重に戻したなどという話もよく聞きます。「調子が悪くなったら元の体重に戻せ」みたいな発想が多くの人にあるという事は、ある体重(セットポイント)のことを『ここが一番調子の出る居場所(適正体重)』という形で本能的に理解しているのだと思いますし、最終的な着地点はそういうところにあって、それ以上にパフォーマンスを上げたい場合には体重を減らすこと以外で努力するべき課題なのかも知れません。

ですが、30代40代になって体重が微増し続け、調子が良かったあの頃より5㎏ぐらい増えてしまった。なので、あの体重に戻せば何かを取り戻せる可能性が大きい、と感じる時には体重を減らすことを考えても良いと思います。それで解決できることは2割から3割程度かも知れませんが、そこがカギになりそうなら落としておきたいところです。その際、体の調節機構が働いて大きくリバウンドする方向に動いてしまう事は極力避けたいので、どういうペースで落とせばいいのかという匙加減が重要になります。ですがこれ、成功した人が意外と少なく、仮に成功した例があっても他の人に当てはまるのかという確証が得ずらいので、一般化したメソッドで示すのが難しいです。私の場合も何度も失敗しましたが、とりあえず最終的にこのペースが良さそうだと思える持論が今はあるので、その結論に至った経緯と共にそのペースについて提案レベルで書いておきたいと思います。

《体重を減らすペースについて》
まず、ダイエット関連の指導者が、指標やメソッドとして示していたものでは、次のようなことを語っていた例が2つあり、私もそこからスタートしました。

・1か月に減らしていい体重は、現在の体重の4%まで
・4%下げたらその体重で体を慣らし、新しいセットポイントを体に覚えさせてから
 段階的に落としていくべき

私が81㎏~68㎏ぐらいまで落とした際は、糖質制限で段階的に落とすようなことを数か月おきに何度も繰り返して2年半で13㎏落としたのですが、1か月でセットポイントを4%落とすというのはペースとしてはかなり早いと思います。私の経験では、セットポイントが落ちる時というのは突然最小値が300~400g落ち、それをうまいこと継続させていくと元の最小値より700~900g落ち、もっとうまくやると最終的に2kgぐらい落ちて止まる印象なのですが、私が普段接するクライマーで、もし体重を減らすことを考えているのであれば、目標値は「セットポイントを年間2kg下げる」ぐらいで成功になると思います。調子がいい頃より体重が5㎏ぐらい増えてしまい、直ぐにでも元に戻したいと思っている人だとしてもです。イメージは次のようになります。

【年間目標提案値:セットポイントを2kg減】
・努力を始めてセットポイントが300g減ったら「効果あり」
・500g減ったら「とりあえず成功」
・1㎏減ったら「しばらく様子見をして維持」
・減少が止まってしまったら、しばらく維持してから残りの分を減らしていき、1年以内に
 セットポイントを2kg減らすぐらいにする。
・それ以上は求めない。もしくは意図的に戻してもいいぐらい。

《前回の記事の結論との整合性》
前回の記事で、「そもそも、何の努力もしなくても1か月で2㎏変動するのは正常な遷移であり、太った訳でも痩せた訳でもない」という結論を書いたので、「年間でセットポイント2kg減って、かなり少なくない?」もしくは「言ってる事が矛盾している」と思うかも知れません。しかし、セットポイントが変わらない中での2kgの変動と、セットポイントが2㎏変わることは全然違います。もしも記録を付けていると、次のような違いが出てきます。

【セットポイントが変わらなまま、2kgぐらいの変動幅で推移している状態】
生活習慣が変わらなければ次のグラフのような感じで変動を続け、最大値と最小値の幅は2kgぐらいありますが、毎朝決まった時間(例えば朝)の体重だけを見るとある特定の数値以下には下がりません。
体重遷移1か月 赤線付き
【セットポイントが2㎏変わる状態】
ある時、直近の1か月の最小値より、最小値が300g程度下がっていたら、セットポイントが下がってきた兆候が出たということなのですが、一度下がり始めるとセットポイントは良くても1~2kgぐらい下がって止まると思います。このグラフは、運よく1か月でセットポイントが2㎏下がった時の例で、今までより平均値が2kg下がり、その下がった値を中心に上下幅2㎏の体重偏移をしています。

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尚、セットポイントが2㎏下がって66.5㎏から64.5kgになった場合、セットポイントとしては2㎏程度しか下がっていなくても、体重計に乗った時に示される数値は最小63.
0㎏〜最大68.0㎏ぐらいまでの5kgぐらいの変動幅を示すことになります。
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・このグラフで示された期間では、体重の計測値の最大から最小までの落差が実際に5㎏あり、岩場に行くと「げっそりした」と言う印象を持たれ、「あんまり減らすと骨がもろくなるよ」などと言われて心配されるレベルです。  実際には平均値が2㎏下がっただけなのですが。

《セットポイントを1月4%のペースで落とし続けるとどうなるか》
・仮に1か月4%のペースでセットポイントを落とし続けることができるとすると、65㎏の人が半年後に51㎏になるほどの激しい落ち方です。体重は上手く減らせたとしても、そのうち4割は筋肉と水分なので、これだと筋力もかなり落ちると思われ、半年経たずともパフォーマンスが出なくなると思います。
・世の中には、メタボな人達が数か月で20㎏落とした等の話がたくさんあり、このペースで落とし続けられる人もたくさんいるとは思うのですが、この手の例に出てくる人は普段運動をしないような人が100㎏から80㎏まで落としたといケースが多く、冒頭に示したような目的を持つクライマーの実情には合わないと思います。ただし、81㎏になってしまった頃の私はこのメタボと同じ状況だったので、クライミングのパフォーマンス云々を考えずにできるだけ早いペースで下げていました。ただし、年2kgのペースで下げていれば、単純計算では8年で16㎏±2kg下がっていた訳で、12年もかからずに18㎏減らせたのかも知れません。

《もしも明日体重が10㎏落ちたら、クライミングパフォーマンスは上がるのか》
私自身18㎏落としたことで気付いたことがあるのですが、仮に明日10kg体重が落ち、尚かつ健康状態とパワーウェイトレシオが維持できていたとしても、その体は使いこなせないだろうという事です。10㎏違うとクライミングの中でできることも増え、直ぐに向上するパフォーマンスもあると思うのですが、まず、壁に取りついてみない事には何ができるようになったのかがわかりません。重心が全然変わってしまうので、その新しくなった軽い体で新たな重心の位置の感覚を覚え、その体ならではの技術を身に付けるには、もう一回ムーブの引き出しを作り直さなければならない感じになると思います。「ああ、軽くなるとこんなこともできるんだ」という嬉しさや発見はあるのですが、逆にいうと、それをいちいち発見して身に付けていかないと軽くて性能の良い新しい体は使いこなせないということになります。実際はちょっとづつ体重が下がって行きますので、ある程度落ちたらしばらくはその体重でクライミングが慣れるまで維持するような工夫をしながら、段階的に落としていく必要があると思います。

《目的と目標が定まったとして、効果はどうやって確認する?》
以上のことを踏まえて私が出した結論が「セットポイントを年間2kg下げるぐらいで成功」なのですが、この場合に問題になるのが体重計に乗っているだけだと、「日々の1㎏の変動」と「セットポイントの500gの変化」の見分けがつかないということです。また、諸々の理由によって突発的に体重が1~1.5kg増えて高止まりすることがあるので(後述予定、そういう変動との違いを見極めた上で「セットポイントを減らしていく」には、やはり日々の体重遷移の特性を視覚的に把握していないと「この前1㎏減ったけど、また元に戻った。これなんだろう?」的な、負のスパイラルから抜け出せなくなります。なので、繰り返しになってしまいますが、記録を付けながら体重をコントロールすることをお勧めします。

 

次回は、体重をは把握していく時のノイズともいうべき、「リバウンド以外の体重変動」について書く予定です。


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