体重コントロールの謎 その3《謎の解明》

《M》

体重をどうやって落とすかと言えば、行き着くところは食事制限や継続的な有酸素運動トレーニング等になると思いますが、その目的が目標ルートとの勝負なら、当面は食事制限を強力かつ徹底していつもより何㎏か落とした状態を1か月程度維持し、その間に勝負すれば良いと思います。高難度ルートをやる人は、だいたいそれをやってる印象です。しかし、そもそも体が絞れてないので今から数㎏下げてそれをずっと維持したいとか、なんならもっと落とそうという場合、工夫を入れないとセットポイントとホメオスタシスの呪縛から抜け出せず、同じレンジの体重を堂々巡りすると思います。

「セットポイントの理屈はよくわかった」「気を付けながら慎重に落とす」と思っていても、ある時突然無意識のちょっとした食べ過ぎみたいなものが積み重なり、気づいたらリバウンドコースに乗っかっていつものレンジに引き戻されるのです。この無意識というのもホメオスタシスと関係していて、体が危機を感じた際に意志より強く働いてしまうのですが、そうならないように少しづつ落としていくと、リバウンドせずに低い体重で体を順応させられます。なので、この辺のコントロールをするために、記録を付けてセットポイントがどの辺りにあるかを把握し、どの程度のスピードで下げるとリバウンドしないのかを理解しておく必要があります。ちょっと面倒な気もしますが、私はこれをしていなかった時代に何度も堂々巡りを繰り返し、どうしてそうなるのかという謎が解けずに悩まされていました。ですが、記録を付け同じパターンに遭遇しているうちに、次のようなことが起きていたということがわかり突破口が開けたのです。

《体重は同じでも、セットポイントが同じとは限らない》
例えばある時に計った体重が65.0㎏だった場合、
(a)セットポイントは63.8㎏なのに、その時たまたま体重が65.0㎏まで上がっていた
(b)セットポイントが66.8㎏なのに、その時たまたま体重が65.0㎏まで下がっていた

(a)の時は、その後何もしなくても自然に63.8㎏まで下がりますが、(b)の時は多少の努力をしても体重が減らず自然と66.8㎏まで上がっていきます。人の体重は常に変動しているので、実際にはセットポイントが3㎏も違うのに、適当なタイミングで体重を計ると同じ数値が出ることがあります。

《セットポイントを把握してないと何が困るのか》
もしも(a)(b)の両者が体重を落としたい場合、本来(a)の人はセットポイントを62㎏ぐらいに定めて努力をするべきで(その4で後述)、(b)はセットポイントが65㎏ぐらいになるように努力すべきです。ところがセットポイントを把握しないまま、たまたま計測した時の体重をベースに「3㎏減の62㎏!」と目標を定めても妥当な目標にはなりません。なぜなら、

・(a)はセットポイントが変わらなくても62gまで下がる瞬間が出てきますので、「やった―目標達成だ、3㎏落としたぜ!」と思っても、直ぐにセットポイントの63.8㎏に戻り、(b)はセットポイントと目標の乖離が大きいため、長期的にやらない限りリバウンドに跳ね返されて目標に達しないからです。(a)については、目標に「セットポイントを62㎏(c)」とすれば良かったのですが、「体重計の数値でとにかく62㎏を出す(a)」ことを目標においているところが問題です。(c)は62㎏近辺で維持できるようになりますが、(a)は一瞬何かの拍子で62㎏が出て、その後は63.8㎏辺りをうろつくことになるので意図した通りに下げられないと思います。

・(a)も(b)も自分の体重と向き合い始めて1~2か月経つ頃にはもういいやと思うようになり、同じレンジの中を彷徨うことになります。(a)(b)いずれも過去の私であり、みなさんもそうでしょうとは言いませんが、セットポイントもホメオスタシスも知らず、「最近、体重を計ってない」などと言う人が無理な目標を立てても、多くの場合この罠に掛かって抜けられないはずなのです。

しかし、嫌でも記録を取っていくと、妥当な目標みたいなものが見えてきて理想に近づけやすくなりますので、まずは論より証拠ということで体重の把握の仕方を紹介し、プロットするとこんなことわかるよ、という話をしてみたいと思います。

《体重遷移特性の把握》
体重遷移の記録とセットポイントの把握は簡単で、基本的には毎日決まった時間に体重を計って記録しそれをグラフにして可視化するだけです。アプリを使えば、日々の平均値や月平均も見えるので、月平均辺りをセットポイントだと思っておけば良いと思います。

私が普段記録している自分の体重遷移のグラフを例にすると、iPhoneに標準で入っている「ヘルスケア」という無料アプリに計った体重と時間を入力するだけで、日、週、月、年のタイムレンジで体重の遷移がグラフ表示され、平均値や各プロットの数値が表示されます。

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《左のグラフ》
・横軸は時間で、左端から右端までが1か月というタイムスパンで表示したグラフです。
 期間は202144日~54日で、直近の1か月の体重遷移を示しています。
・体重測定のタイミングは、条件を揃えるため、朝起きて「小」をした後と夜寝る前に
 しています。それ以外は特に決まりはありませんが、夕方にホットヨガに行って汗を
 出し尽くした時や、クライミングが終わって帰宅した後に入力することがあります。
《右のグラフ》
・タイムスパンは1年で、各プロットは1か月の平均値です。
・赤い丸で囲んだところが、左のグラフ1か月分に相当します。 

【このグラフからわかる事】
・月平均(右のグラフ)で見ると4月と5月はほとんど体重が変わっていないように
 見えますが、日々のプロットを細かく見ると、最大値が65.6㎏で最小値が63.4< /span>㎏と
 なっており、全て2.2㎏の変動幅内に収まるように推移しています。
・この時期にはお腹いっぱいタラフク食べた日もありますし、ホットヨガで汗を出し
 切った日も全部プロットしていますが、それらを全部含めても上限値と下限値の
 最大落差は1か月間でわずか2.2㎏しかなく、ホメオスタシスが働いてその範囲内で
 変動しているということになります。
・「いま俺は65㎏台だ!」と思っている時と「いま俺は63㎏台だ!」と思っている時が、
 1か月のスパンで見れば「全然体重変わってない」(右のグラフの赤丸)ということ
 です。つまり、2kg程度の差は太った訳でも痩せた訳でもなく、通常起こり得る正常な
 推移ということになります。

 こうした体重遷移は一般則なので、皆さんも生活習慣が同じなら恐らくこのようになっているはずです。ちなみに私の場合は普段アルコールを全く飲まないのですが、毎日アルコールを飲む人の場合は変動幅等は異なるかも知れません。また、女性の場合は生理の影響を受ける人もいるようなので、違う推移になるかも知れません。なので、自分自身の特性を自分が把握するというスタンスが大事だと思います。

次回は、目標の定め方をテーマにする予定です。

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