体重コントロールの謎 その8《低体重問題》

《M》

最近、岩場の行く先々で「体重のブログ読んでます」「熟読してます」というコメントを頂いたり、このシリーズに関するメールを頂いたりするようになりました。
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『セットポイント下がってますね。』

体重のコントロールについては、自分なりのやり方や持論を持っている人が多いと思いますが、このシリーズが多少なりとも参考になっているなら幸いです。体重コントロールのやり方は、各人のライフスタイルとも関係してくるため、そこまで踏まえてこうしたら良い的なことを書くことはできませんが、私のケースをたたき台に今後も情報交換できればありがたいです。

前回の記事では炭水化物を抜いて体重を10kgぐらい減らした話を書きました。ざっくり言うならメタボでプヨプヨの時は、とりあえず筋肉落ちるの覚悟で炭水化物抜きをやれば体重を減らすのには効果的だと思うのですが、ある程度体が絞れてきたら無理なダイエットはせず、自律神経を整えるための生活習慣の改善とか、食生活の改善みたいな地味な改善を積み重ねていく方が良いと思ってます。また、「これをやったから落ちた」という一つの固定された答えがあったという事はなく、多くの場合はいくつかの複合的な要因があって体重が減ったり維持できたりしてきました。炭水化物抜きは効果があると思いますが、それプラスクライミングとか、回復を早めるための身体のメンテナンス等も同時にしていたので、まずは決意ありきで記録を取りながら色々試して見るのがよいと思います。

 《どこまで落とす?》
一方、そうした努力が積み重なって運よく体重が落ちてきた時、いっそのこと落ちるところまで落としてしまえと思って無理な食事制限を続けていると、栄養失調となって体の方が耐えられなくなりリバウンドします。体重を落とすのにはある程度の決意が必要だと思いますが、体の声が無理だと言っている時に、それをも凌ぐような意思で落ちた体重を維持しようとしたり目標数値にこだわって落とし続けたりすると、その行き過ぎが摂食障害等を引き起こして心身共に破壊してしまう状況にもなりかねないようです。つまり、体重が落ちない人にとっては落とす努力自体が大変なのに、体重が落ち始めた場合には落とし過ぎない努力も必要だということになります。まとめると次のようになります。

・長年重さに苦しんでようやく体重を減らせたとしても、それが行き過ぎないための努力も
 合わせてする必要がある。
・体重が順調に落ちてきても、落ちなくなったら深追いしない。
・1か月にセットポイントの4%以上落ちた場合は、逆に元に戻していくようなコントロール
 が必要。

減量の行き過ぎはコンペクライミングの業界では以前から問題になっているようで、業界的には低体重問題として取り扱われています。コンペティターでなくてもグレードを追求しようという思いが強くなれば同様の状況にも陥り兼ねないので、クライマーの減量はどの程度に留めるべきかと言う観点から低体重問題についても調べてみました。
《低体重問題》
クライミングの場合は余分な体重が不利になるため、アスリートの間では減量の行き過ぎが深刻な問題になっており、ヨーロッパにおいては選手を守るという観点からいち早くBMI値の基準が設けられ、その基準以下の選手は出場できない措置を取っている国があります。日本の場合はBMIチェックをあくまでもスクリーニング検査として実施しているようですが、その背景や見解、対処等の詳細について六角先生と西谷先生がまとめた資料(スポーツクライミング選手の低体重問題について)があるので、こちらも参考に読んでみてください。
https://www.jpnsport.go.jp/tozanken/Portals/0/images/contents/syusai/2021/tozankensyu36/1-1.pdf
この記事によれば、IFSCが取り入れた「痩せ」の判断は、BMI(=体重÷身長÷身長)で男子19、女子18。経過観察域としては男子19~19.5、女子は18~18.5となっています。ちなみに、身長185㎝、体重68㎏のアダム・オンドラが19.9、170㎝60㎏のダニエルウッズで20.8、日本のトップ選手で20~21になる計算です。私の場合は81から68に落とす間に26.7→22.5に落としたことになりますが、現在は21.2なので当面は現状を維持していくつもりです。

《減らすべき余剰脂肪》
人には遺伝的に決められた体脂肪率があり、脂肪細胞は若いうちに個数が決まって変動しないので、脂肪を小さくすることはできても減らすことはできない様です。なので、だいたい健康的にしていればこの辺の数値になるという適性値が誰にでもあるらしいです。しかし、人は10年歳を取ると代謝機能が15%落ちるので、若い時と同じように食べていると必然的に脂肪がついて微増し続けます。代謝が15%落ちると、1日でおにぎり1個分減らさないといけほどの違いがあるそうですが、おにぎり1個は結構大きな違いになるので普通はそれを減らすことができずに太ってしまうようです。アスリートの世界についてはちょっとわからないのですが、一般のクライマーが減量しても良い余剰分、むしろ向き合うべき余剰分というのはこうして増えてしまった部分になるのかなと思います。

《コンフォートゾーンは曲者》
体重を落とすための方法がわかってきてそれがクライミングパフォーマンスの向上に繋がると、「体重を減らす」→「パフォーマンスが上がる」→「最高グレードの更新」→「誰かしらにに認められる」のループが新しいコンフォートゾーンになり、もっと落としてやろうと思ってそのゾーンから抜けることができなくなるように思います。「自分自身、もしくは誰かしらに認められる」というのはクライミングの文化から切り離せない要素なのでそれが喜びと直結していると思うのですが、人に認められたり本人にとっても意味や意義を感じるのは、克服すべき課題を努力の末に乗り越えた時だと思います。体重のコントロールもその中に含まれるとは思いますが、極度に体重を落とすことによってのみ高グレードを落とすことは、クライミングの技術やそれに必要な筋力、柔軟性、精神力を高めることでの向上とは異なり意義も薄いように思います。ちなみに私は学生の時に52㎏まで落ちたことがあるのですが、例えば私がその時みたいに52㎏まで落として14を登ったとしても、クライミングを通して何かを乗り越えたとか、強
くなったという要素が無いのでそういうのは目指していません。

散々色々書いてきたくせにこんなこと言うのもなんですが、ある程度のコントロールができたら最終的には減量への執着を捨てることも大切だと思います。

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