■9月23日(水)
遠いと思っていた知床も射程圏に入り、「寄り道しなければ1日で行ける」、「どうせなら釧路を超えて根室まで行ってから北上しよう」、「釧路と言えばタンチョウヅルだから鶴を見てから行こう」、というざっくりプランを持って上浦幌PAで朝を迎えました。

北海道に入って9日目となり、基本方針は「とにかくドライブで北海道を一周する」「10月上旬には家に帰る」とし、細かい計画は立てず出たとこ勝負を大事にしていましたが、基本方針とこれまでの自分の旅の楽しみ方のリズムを掛け合わせると、必然的にだいたいのペースも決まっていました。
釧路地域の地図を拡大すると、地図上に「釧路湿原国立公園」と表示されることが多いのですが、本州育ちの私には、この「湿原」というのがイメージできません。湿地?沼地?田んぼみたいな感じ?と、頭の中でクエスチョンマークが回り出すだけなので行ってみるしかないのですが、いずれにせよ楽しめる何かがある予感がしないので、とりあえず鶴を見たら根室に向かうことにしました。後で調べたところ、釧路という地名は、アイヌ語の「クシ・ル」=「越える・道」「通り抜ける道」に由来するというのが最も有力な説となっており、アイヌしかいなかった時代からそういう場所だったことを知りました。
《温根内ビジターセンター》

最初に向かった先は、「ここに来れば鶴が見れる」と聞いていた、温根内ビジターセンター。

ビジターセンターの周辺には全長3.1㎞、一周1時間程度で歩ける木道があり、湿原の上でも歩けるようになっています。私の頭の中ではタンチョウヅルがそこにワサワサいたので、「今日は天気も気温もほどよく、観光客もほとんどいなくて快適だ~!」などと思いながら木道をテクテク歩いていきました。鶴がいるならなぜ観光客に溢れていないのか?などという疑問は持たず、「行けばわかることだ」という、いつもの出たとこ勝負精神で足を進めます。

木道には所々に植生の説明書きのプレートがあり、そうしたものをマメに読むと同時にGoogleレンズで見たことのない植物を調べ、これが「湿原か~」とかつぶやいて歩いて行くと鹿にも出会いました。北海道の鹿は全般的に逃げません。人間を見て逃げた鹿は一匹もいなかった気がします。私はクライミングで山梨によく行きますが、山梨の鹿はだいたい人を見ると逃げるので写真に撮るのも難しいのですが、北海道の鹿は直ぐに写真に納まってくれるので、過去十数年分の山梨で溜まった溜飲が下りた気がしました。

木道は湿原の上ずっと続くので、最高のお天気の中、ひたすらその上を歩きます。

こんな景色の中を延々と散策路を歩いて行くのでそれだけで気持ちは良いのですが、やがて「鶴がいなーい」と言って、何かが間違っていることを悟り始めます。
散策路をくまなく歩き、やがて一周回ってビジターセンターに帰着。

湿地の植生やら、アイヌとの関り、タンチョウヅルの通年を通した行動パターンなど、色々な情報が提供されているのですが、どうも今はタンチョウがここに飛来する時期ではないようです。ネットで詳しく調べてみましたが、タンチョウヅルは渡り鳥ではないので1年を通して北海道にはおり、温根内には春から夏と11月~3月頃にはいるものの、9月に関してはどこにいるのかよくわかっておらず、特定の飛来地がないようです。ピンポイントで的外れの時期にやって来て、快適だ~!といって木道を歩いてきた私は、そうした新たな情報を仕入れると、直ぐに鶴探しを決意したのでした。

「意志ある所に道は通じる」を信じている諦めの悪い私は、センター内にある「釧路湿原国立公園インフォメーション」としばらくにらめっこ。北海道のどこかに鶴がいる、という事実が私を支えていました。国際ツルセンターには居そうな気がするのですが、30㎞先なので最後のオプションとして保留し、まずは8㎞先の8分で行ける鶴見台、その先にある「鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリ」(15㎞、17分)に狙いを定め、ビジターセンターを後にしました。

鶴見台には直ぐ着いたのですが、どこに目を凝らしても鶴は居ませんでした。11月~3月には200羽近くの鶴が飛来する給餌場になっているらしいのですが、やはり時期が悪いようです。まあ一応、サンクチュアリの方も行っておくかと思ってさらに車を走らせたのですが、、、

「いた~!!!!!」
サンクチュアリに向かう途中の畑に居ました!カメラの性能が悪く、粒度が荒くてあまり拡大できないのが残念ですが、タンチョウヅルが群れています。私と同じように車を降りてカメラを構えている人もいました。昨日まで全く興味がなかったのに、くまなく探してやっと見つかると嬉しいものです。この分だと、サンクチュアリにはもっといるのでは?と思い、念のためそっちにも向かうことにしました。

これまた、カメラ(iPhone)の解像度が悪いのが残念なのですが、サンクチュアリでは優雅に飛んでいくツガイのタンチョウを見ることができました。普段の私の話し言葉には、「優雅」とか「美しい」という形容詞はほとんど出て来ないのですが、この時のタンチョウは本当に優雅で美しかったです。その後、看板の説明書きを読み、アイヌ語でタンチョウをサルルンカムイ(湿原の神)ということだけ覚えてこの地を後にしました。
《釧路湿原国立公園》
ツガイのタンチョウを見た時点で12時前だったので、お昼ご飯は厚岸で牡蠣でも食べようと思い、目的地を道の駅厚岸グルメパークに設定してそこに向かいました。


その道中の何でもないような畑で、偶然にも70羽近いタンチョウを見ることができました。何でもそうですが、それまで執着していたものを諦めた瞬間、求めていたものが手に入るあれってなんなんでしょうね。何かに執着して夢中で求め、万策尽きてそれを断腸の思いで手放すと不思議とそれまで求めていたものが手に入ったりします。ここでもそのプロセスが働いている気がしました。いずれにせよ、もはやこの地でやり残したことはなくなったので、舗装もされていないような悪路を乗り越え、厚岸まで走り抜けました。
《厚岸(あっけし)グルメパーク》

海の景色がきれいな、道の駅厚岸グルメパーク。厚岸は牡蠣が有名で、私が勤めていた東京日本橋にも厚岸の牡蠣を売りにしているお店があったので、それで名前だけ覚えていました。

牡蠣は「マルえもん」とか「カキえもん」とかのブランド名で提供されていますが、呼び名にさほど興味の無い腹を空かせた私は、「牡蠣とザンギ定食」を食べたのですが、どんな味だったかは完全に忘れてしまいました。まあ、誰かに猛プッシュするほどの味ではなかったということでしょう。

それより、道の駅で目立っていたのはこのポスターの男。もともと、今回一緒に北海道行こうかなどと話していた、知人の某有名アイスクライマーにそっくりなので、「あれっ、こんなところでモデルやってんのかなー」と思いましたが人違い。

最後に行った利尻島のゲストハウスでも、厚岸のポスターの男の話題になったのですが、全く無名の一般ロシア人というのがオチでした。

厚岸は、細かく見ると色々見るところがありそうなのですが、深入りするとここだけで2日かかりそうなので、「またいつか」などとつぶやいて、根室の先に向かうことにしました。
《厚岸~根室半島の付け根》
厚岸を出たのが15時前。納沙布岬までは100㎞あって1時間40分で行けますが、暗くなると景色が見えなくなるので、あまり悠長なことは言ってられません。

「根室半島とはどこを指すのか?」ということに関しては一応の定義があって、温根沼や風蓮湖から先が根室半島ということになっています。その手前に道の駅「スワン44ねむろ」がありますが、そこに至るまでの景色で印象的なのが草原地帯。ネットで調べると牧草地と説明されて出てくるのですが、そこを突っ走ってきた印象だと家畜がいた場所の方が小さく、どっちかというとほぼ草原です。

美瑛のような畑でもなく、十勝のようなトウモロコシ畑でもなく、旭岳のような荒野やお花畑、釧路の湿原とも違います。かつて謳われていた「北海道はでっかいどう」というコピーは間違ってないのですが、広大とか雄大と言っても種類がたくさんあり、各土地によって受けるインスピレーションは全然違うと思いました。私はこれまで、1週間という短い期間の中で、これだけ多様な「雄大さ、広大さ」を見たことも比較したこともなかったので、言語化するのも難しく自分の中でその感動を消化するのも難しくなってきたのですが、それぞれの土地がそれぞれの特色と良さを持っており、どこに行っても一旦その世界に浸りたくなるようなところばかりでした。単にドライブして通過するだけの腹積もりでいた釧路と根室においても、「過去最高の景色」がその時々で更新されていきました。実際にはそれぞれの土地の良さに優劣は無く、逆の順序で回ったとしても、毎日過去最高が更新されていたと思いますが…
《道の駅スワン44ねむろ》

オフィシャルサイトから抜粋した、道の駅スワン44ねむろの鳥観写真。ハクチョウには、こうやって見えているのかも知れません。

道の駅スワン44ねむろは、風蓮湖という湖の目の前にあって、その名が示す通り、ハクチョウの飛来地になっているようです。11月中旬頃には5000羽を超えるオオハクチョウがシベリア方面からやってくるそうですが、道の駅の建屋の中で湖に面する側はガラス張りになっており、望遠鏡も設置されています。この辺りに生息する動物の剥製や、根室十景マップなるものがあって目ぼしい観光スポットを眺めてみましたが、心惹かれるものはあまりありませんでした。

代わりに、この道の駅で一番目を惹いたのが花咲線のポスターに書かれたキャッチコピー。
「日常と離れた分だけ旅になる。」
「まだ、こんな地球が残ってる。」
「突如、フィクションを遥かに超えた一瞬が訪れる。」
「人間の住処、動物の住処、地球にそんな境界線はなかったはずだ。」
自分がこれまで旅しながら感じて来たことと同じことを感じ、尚かつそれを洗練させた形で言葉にできる人がいるんだと思い、ついつい写真に収めてしまいました。
《根室半島》
根室半島の先の方は、最果ての地です。聞いてはいましたが最果て感が半端ない。ある場所で停まり、同じ時間(17:17)に方向を変えて撮った写真がこれ。十勝と同じくここにも「何もないところ」がありました。前方が地平線になってる直線道路もディフォルトで、この中をず~ッと走って行きます。

どこかの時点で、GoogleMapに行き先を「納沙布岬」と設定したら、「目的地69.3㎞先」「詳細69.3㎞先左」と出ました。つまり、このまま真っ直ぐ行って、一番最後に左に曲がれば納沙布岬ということのようです。邪魔するものが何もない道、最高でした。
《納沙布岬》
17時半前には納沙布岬に到着。意外と人がいました。お土産屋と海鮮料理系のお店がありましたが閉まっていたので、灯台の周辺を回ったり日本最東端のポストの写真を撮ったりするうちに、いよいよ暗くなってきたのでこの地を後にしました。

納沙布岬と言えば、とんねるずが昔「人情岬」という曲の中で「のさあっぷは~♬ にんじょおみーさきー♪」と歌っていたので覚えていて、ここに来るまで頭の中でずっとその曲のサビが流れていました。逆にいうと、それでしか納沙布岬の事を知らなかったのですが、そのおかげでここまで来れたかと思うと、とんねるず様様です。1986年の曲らしいです。
帰りは、北海道最強という噂の回転寿司「根室はな丸」に向かうべく、来た時と別の道で帰ることにしました。あの、何もない草原の先の納沙布岬周辺にはところどころに集落があり、ここで何を生業にしているのかと思って調べてみましたが、根室市の就業者の3割が水産関係ということなので、漁師町なのかも知れません。その他、全国の1割、北海道の2割の牛乳を根室管内で生産しているようです。
《根室花まる》
根室市街にある、回転寿司の「花まる」は30人待ちでしたが、1人だったので比較的早くカウンターに通してもらえました。人にお勧めされたお店は、あまり美味しくなかった時にコメントを返すのに困るのですが、花まるの寿司は一口食べた瞬間に噂通り北海道最強だと確信しました。「これこれ、こういう味を求めてたんだよ」という味に巡り合えてホント良かったです。ちなみに満足行くまで食べて3000円弱。美味しさと値段は必ずしも比例しないのが不思議です。

《霧多布(きりたっぷ)岬》
根室半島の霧多布岬というところでラッコが見れるということだったので、根室市街で銭湯に入った後、霧多布岬の無料駐車場まで行って、宿泊。この日はそこそこ旅を楽しめましたと思います。

(つづく)

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