北の国から2026 ~セカンドライフ~ Vol.7 「十勝平野」

■9月21日(月)  帯広

人生の大半を関東で過ごしてきた私の感覚では、北海道と言えばイコール札幌。商社勤めだった私の仕事の文脈で「北海道に出張行ってきました」と同僚が言っていれば、頭の中では「札幌に行って、すすき野でジンギスキンカンかラーメンを食べて、あとは風俗に行って遊んできたってことかな?」と自動翻訳される場所でした。

仕事を離れたところで「旅行で北海道に行くならどこがいい?」と聞かれて行き先を考えた場合でも、知床に興味はあるけど、行ったことある人の話は聞いたことがないし遠いのでちょっと…。函館、旭川、釧路、根室、苫小牧…は、地図に地名が載ってるから知ってるけど、何があるのかは知らない。十勝は、バターとかパンの食材にブランド名として付いているのを良く見るけど、旅行する場所としてはピンと来ない。

美瑛と美唄の読み方も知らず、その存在すらも知らなかった私の目の前で、何か月か前に知人二人が北海道トークをしていた際、

Aさん「美瑛(びえい)はホントに景色が綺麗でした…」
Bさん「今まで美瑛はすごいと思ってたんですけど、十勝はもっとすごかったです…」

と言っていたのを聞いて、そもそもホントにそこまで言うほどスゴい景色って存在するのか?と首をかしげ、でも北海道に行くなら美瑛と十勝は一応ドライブして自分の目で確かめて来よう、と思ったのが今回帯広まで足を延ばした動機です。十勝というのが北海道南東部一帯を指す平地の名前であり、主要都市が帯広であることをちゃんと認識したのも昨日のこと。

Vol.2で書いたやまびこ農園で知恵を授かり、旅をしながら野菜部部長と連絡を取って得た情報を総合すると、

・帯広の名物は、インディアンカレーと豚丼の「ぱんちょう」
・百名山のトムラウシ山は、今の時期寒いからやめた方が無難
・東ヌプカウシヌプリ山はトレッキング感覚で登れるし、ナキウサギが見れるのでお勧め
・士幌町~上士幌町の景色は絶景
・然別湖の湖底線路も観光スポット
・帯広畜産大学も、見学可能

とのことでした。インディアンのカレーは帯広に着いた20日(日)の夜に食べ、翌日21日(月)は天気が悪かったので、のんびりしようと思って昼食に「ぱんちょう」に向かったもののまさかの定休日。代わりに行った「とん田」は、駐車場に入るための車が70台待ちだったので、運転しながら待ち行列の車の数を数え、「ない、ない、ない」と念じてその横をスルー。帯広畜産大学は、許可証の無い車は駐車不可ということで退散し、収穫の無い一日となってしまいました。この日はマクドナルドに2回も行って旅の記録を付けたりした他、一般道で70台待ちを可能にする帯広の道の広さ、直線道路の長さ、それを許容する帯広という風土を感じながら、前日と同じく500円のスーパー銭湯に入り、最後は道の駅おとふけで車中泊しました。

■9月22日(火) 東ヌプカウシヌプリ山・然別湖・上士幌~士幌町・十勝川温泉 

道の駅「おとふけ」で迎えた朝は気持ちのいい快晴だったので、直ぐに活動を開始して東ヌプカウシヌプリ山に向かいました。

GoogleMapが示す、道の駅おとふけから東ヌプカウシヌプリ登山道までの道はシンプルで、48㎞の道を48分かけて走るだけです。地図上では異様に真っ直ぐ伸びた道路を2回曲がるだけですが、さてどんな直線なのか、、、

じゃーん。帯広の直線道路はとにかく長いです。直線と言ったら直線、真っ直ぐなのです。「これ以外に直線道路ってあるんですか?」と言わんばかりに、どこまで続いてるのかわからないぐらいに長く、道に引かれた白線が真っ直ぐ過ぎて美しく見えます。凄くないですか?

こんな道路、視力検査の時にしか見たことがない!っていうぐらいの絵に描いたような直線道路なのですが、逆に「あの視力測定に出てくる気球の風景は実在したんだ!!」と思い、ちょっとした興奮を味わいました。ちなみにこういう景色は、道東ではこの先にもたくさん出てきて珍しくありません。

たま~に信号が出てきますが、次の信号は見えません。車は全くと言っていいほど走っておらず、これが帯広の市街地をちょっと出たぐらいから始まって延々と続くので、「あれっ」って思います。

「あれっ」って思った後は、本州では見たことがないぐらいのスケールの美しい農地が現れ、「えっ!」って思ったりもします。

右も左もこんな感じで、3mぐらいのデントコーン(家畜用トウモロコシ)の畑になっていきます。こういう土地ならアメリカとかにもあるとは思うのですが、関東の市街地とたいして変わらないJR帯広駅やマクドナルド、セブンイレブン、60分ウン百円の有料駐車場に溢れる市街地からたった20分走っただけで出現してくる異次元感に驚かされます。景色自体の凄さというか、自分の想定や認識を覆されて心を動かされたのだと思います。旅行中の私は、今回の旅行のことをブログに書こうと思っていなかったので、基本的にどの写真もブログ用に撮った訳ではなく、理由はないけど「なんかこれは写真に撮っておこ」と思ってついつい車を停めて撮ったものばかりです。

今回の旅に出る前に思っていた、「十勝平野には何もない」という認識は、正しいと言えば正しかったのですが、何もないことに対する意味付けは変わり、「『何もない場所』が在る!」と思うようになりました。それまで自分が思っていた「何もない」は、食べる所がない、コンビニがない、喫茶店がない、スーパーがない、本屋がない、ショッピングできる所がない、運動する場所がない、公園がない、神社がない、病院がない…という意味で使っていた言葉で、確かにそれらは一つも無いのですが、代わりにもっと凄いものを見つけた気がしました。これが家畜の命を支え、それが人間の食料となっている訳ですから自分の命の根源みたいなもので、それがこんな形で存在しているんだと。地図を見てもトウモロコシ畑の事は載ってないし、ネットで観光スポットを調べてもそうしたことは何も出て来ないのですが、「何もないけどこれ凄くない?」を直観した世界でした。経済活動で頭がいっぱいになっていたかつての私のような人には興味が湧かないかも知れないのですが、そっちの世界に疲れて何かがおかしいと一旦線を引き、自然回帰に向かっている人にとっては、十勝の景色は凄くてヤバいとしか言いようがないところです。

《扇ヶ原展望台》

あ~、もっと見たかったな~と思っても、20分もしない内に山道を車で上がる感じになり、途中で車が停められる駐車場が出てきたのでピットインしました。扇ヶ原展望台というトイレ付無料駐車場です。

これまで走ってきた十勝平野の全貌と、これから行く東ヌプカウシヌプリ山やそれ以外の山々、然別湖、帰りに走ろうと思っていた士幌町~上士幌町の位置関係が示されています。

展望台なので、当然眺めも抜群です。

《東ヌプカウシヌプリ山》

展望台から2㎞、車で2分ぐらい走ると道端に車がたくさん停まっているので、ここが登山口なのだとわかります。トレッキングの準備をしてそれっぽい所を入って行くと「東ヌプカウシヌプリ登山口」の登山口標柱が現れます。これぞ、普段イメージしていた登山口。旭岳とは全然違います。

登山道は割と普通で、1時間ちょっと歩くと頂上に到着。

山頂からの景色はもちろん綺麗で、周辺の山も見えるし十勝平野も一望できます。扇ヶ原の展望台より高いところから見えるので、足を使って高度を稼いだことを実感できたり、ちょっとした意味を感じられたり、、、

でも、この山の名物は、希少動物のナキウサギ。

山頂から繁みの中を入っていくような道があり、そこを歩いていくとナキウサギが出現するという岩場が現れ、多くの人がここでナキウサギを待ち構えていました。

1時間ぐらい待つのが普通らしいのですが、私は40分で音を上げて下山することにしました。私と同じくナキウサギ待ちで敗退してきた同世代の男性と下山しながら話したのですが、相手も函館から来た旅人だったので話が合い、生身の人間と話すのが5日ぶりぐらいだったこともあって楽しかったです。

《然別湖(しかりべつこ)》

下山後は、近くにある然別湖に行きました。湖って意外とやることがなく、湖畔を歩いて写真を撮るぐらいしかないのですが、自分の心は既に山で浄化されていたので、割と美し目の湖面を見ても何も感じませんでした。今見ると綺麗に見えるのですが、、

然別湖で有名なのは「湖底線路」で、湖の水中に向かって線路が伸びており、これが観光スポットになっています。

「天空の湖に、異世界へ続くレールが沈む」というのがキャッチコピーだったりして、「幻想的」ということで人が集まってくるのですが、実態としては、冬に湖面が凍る前に遊覧船を陸に引き上げるための実用的な線路なので「ふ~ん」という感じです。それを見るために10~15人の人だかりができ、さらにはこれを見るための駐車場待ちの車が20台ぐらい行列を作っています。美瑛の「青い池」といい、「湖底線路」といい、見せ方次第で何でも観光地になってしまうのだなと思いました。

《上士幌~士幌町》

然別湖を後にした後、湖を回り込むように車を走らせて上士幌町~士幌町に向かったのですが、途中にあった大雪自然館に立ち寄りました。ちょっとした無料の博物館みたいなところです。

私は最近樹木に興味があるので、「これで樹齢350年か~」とか思いながら樹木の写真だけ撮っていたのですが、同じノリで昆虫の標本や、動物の剥製などがたくさん展示されており、1時間以上ないとじっくり見れない感じでした。ですが、この時既に夕方だったので、暗くなると上士幌~士幌町の景色が見れないということで、適当に切り上げて車に乗り込みました。

《上士幌~士幌町》

上士幌~士幌町で驚かされるのは、トウモロコシ畑の1区画の長さです。中区画という区画が546m四方なのですが、長い所は1㎞ぐらいあって、時速50~60㎞程度の車で横を1分ぐらい走らないと、端から端まで辿りつきません。で、一つの区画が終わると、また次の区画が出て来て、それがまたトウモロコシ畑なのですが、そういうのがずっと続きます。この写真の右から左に貫く、真ん中の緑の薄い層が、高さ3mのトウモロコシです。ちなみに2.5~3mあるのがデントコーンと言って家畜の飼料になるもので、人が食べるトウモロコシはスイートコーンで1.5mぐらいだそうですが、十勝をドライブ中スイートコーンはほとんど見かけませんでした。

その後、目的地を十勝川温泉に向けてひたすら車を走らせました。

《十勝川温泉》

十勝川温泉は、温泉名というより地名です。その名が示す通り温泉地帯なので、温泉はたくさんありますが、この辺一帯の温泉はモール温泉と言って植物性の温泉で少しヌルヌルします。北海道遺産にも登録されているようですが、その良さはよくわかりませんでした。十勝幕別グランヴィリオホテルというところで入り、その後カレーうどんを食べてひと段落。

《十勝川温泉~上浦幌PA》

夕食を食べながら次の行き先を決め、とりあえず更に東に駒を進めて釧路湿原に向かう事にしました。

夜の内に釧路まで行くつもりでいたのですが、1時間走って上浦幌PAで休憩していたところで眠くなったので、この日は無理せずそこで泊まることにしました。

                                     (つづく)

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